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ジョーカー/hacker2のコメント

rating44.0000

ジョーカーへのコメント

採点

rating4

コメント

現代的かつ現実的なジョーカー

レビュー

このレビューを書くにあたり、記憶を呼び戻すために、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演の二作品『タクシー・ドライバー』(1972年)『キング・オブ・コメディ』(1982年)、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン・ビギンズ』(2005年)『ダーク・ナイト』(2008年)を再見しました。結論とすると『ジョーカー』は、『タクシー・ドライバー』と『キング・オブ・コメディ』から生まれた作品だということです。

『タクシー・ドライバー』の主人公トラヴィスはベトナム帰還兵で、戦争後遺症による不眠症に悩まされていることもあって、タクシー・ドライバーとして生計をたてています。彼は「自分が道に倒れていても人はその上を踏みつけて歩く」(『ジョーカー』の主人公の自嘲)ような底辺の人間であることを自覚しています。仕事をしながら見る、麻薬ディーラーと売春婦がたむろする夜の街には嫌悪感を抱き、眠れない夜はポルノ映画館で過ごすというというのが日常生活です。そして、彼のどこか常人とずれた感じを、映画の前半では丁寧に描いていきます。そして、後半に少女売春婦アイリス(ジョディ・フォスター、何と印象的なこと!)を「助ける」ために、トラヴィスは潜在していた狂気にかられ、彼女のヒモたちを殺すのですが、これによってマスコミやアイリスの両親からは英雄扱いされ、彼は満足感=社会の中の自分の地位を得るのです。そして映画は、かって袖にされた高値の花の女性(シビル・シェパード、きれい!)を見向きもしなくなるまで、自分に自信が持ったトライヴィスの姿で終わります。

『キング・オブ・コメディ』の主人公ルパート・パプキン(当然「パンプキン」を連想します)は売れないコメディアンで、TVの人気コメディアン、ジェリー・ラングフォード(ジェリー・ルイス)の大ファンですが、とんでもない妄想癖があり、ジェリーと自分は友達だと思い込み、自宅まで勝手に押しかけたり、自分が彼のTVショーのゲストとなることがあたかも決まったように吹聴します。もちろん、ジェリーは相手にしません。そこで、主人公は、ジェリーの大ファンであり、ストーカーでもある女性マーシャ(サンドラ・バーンハード)と共謀し、ジェリーを誘拐、監禁し、TV局を脅迫して、ジェリーのショーに出演し、その場で「一夜のキングになるために」ジェリーを誘拐したことも告白します。出番終了後、その場で逮捕されたものの、彼のパフォーマンスは大受けで、刑務所内で自伝を書いてベストセラー、出所後は「キング・オブ・コメディ」としてスターとなるのでした。

ここまで書くと、『ジョーカー』の主人公アーサー・フレックと、この二人の主人公の類似性は明白でしょう。念のため、整理します。

・三人とも社会の底辺で自分の存在意義を見つけようとし、自らの狂気をもって、それを達成する
・三人ともエスタブリッシュメントに憧れを抱くが、最後には、それを破壊することで、自らがエスタブリッシュメントとなる
・三人とも、最後には広く大衆の支持を受ける
・三人とも、強弱はあるものの、妄想狂である

更に細かい共通点を挙げておきます。

・トラヴィスもアーサー・フレックも銃を持ったことが、狂気の爆発の契機となる
・ジョーカーのペイントは、トラヴィスが襲撃の前にするモヒカン刈りと同じ
・アーサーは非白人の女性ソフィー(ザジー・ビーツ)に想いを寄せるが、ルパート・パプキンも非白人の女性リタ(ダイアン・アボット)と結婚する妄想を抱く
・ジョーカーはTVショーで赤いスーツを着るが、ルパートも出所後のTVショーで赤いスーツを着る
・アーサーもルパートも母親と二人暮らし
・アーサーはTV主演の際自分のことを「キング」と紹介するように要求し、アーサーは(もちろん)「ジョーカー」と紹介するように要求する
・『キング・オブ・コメディ』でも『ジョーカー』でも、画面の奥の廊下を右に行ったり左に行ったりして逃げる場面がある

さて、ここで『バットマンズ・ビギンズ』『ダーク・ナイト』を思いだしてみます。面白いのは、クリストファー・ノーランのこのシリーズは、「善」と「悪」をテーマの中心に据えたものだということです。前者は、腐敗した現状を破壊することは善だと主張する「悪」が登場しますし、後者は「善」がなければ「悪」は存在せず、「悪」がなければ「善」は存在しないということを、バットマンとジョーカー、更にはトゥー・フェイスに象徴させて描いています。『ダーク・ナイト』では、バットマンもジョーカーも相手を殺すチャンスがあったのにしなかったこと、ジョーカーがバットマンに対して「お前は面白すぎて殺せない」と言うのは極めて印象的です。

しかし、本作で描かれるジョーカーの存在、そして彼を支持する民衆の考え及び怒りの根底は、明らかに『バットマン・ビギンズ』の「悪」に近いです。そして、15年前には比較的単純な「悪」だったものを、現代のジョーカーによって、新しい「悪」として再提起したのが本作なのです。その意味では、きわめて現代的ですし、現実的でもあります。でも、それは私にとっては少し不満なのです。

なぜなら、ジョーカーというキャラクタはそもそも非現実的なものだからで、非現実的だからこそ表現できるものもまたあると思うのです。ヒース・レジャーが命を縮めながら演じた『ダーク・ナイト』のジョーカー、大変な美男子であるにもかかわらず、その素顔を派手なペイントで隠して演じたジョーカーの方が、本作のホアキン・フェニックスよりはるかにインパクトが強いことは否定しようがありません。

エスタブリッシュメントへの反抗という現代的なテーマですが、それがトランプ大統領を生み出した背景の一つであるというネガティブな側面もあることも忘れない方がよいと思います。

テロの背景にあるものを除かない限りテロはなくならない、民衆の支持を得るテロリストは常にいる、というテーマを扱ったとも解釈できるのですが、それならば、精神を病んでいるジョーカー(これは原作通りの設定です)を主人公にしたことに、私は抵抗があります。本作にも絶対影響を与えている映画『V・フォー・ヴェンデッタ』(2005年)でのテロリズムの描き方とは大きく違います。

というわけで、私個人としては、クリストファー・ノーランのバットマン三部作、あの壮大な絵空事の方が好きなのです。


最後ですが、『キング・オブ・コメディ』について、いくつかコメントしておきます。

・ルパートが恋をする女性を演じるダイアン・アボットは、『タクシー・ドライバー』でもトラヴィスがちょっとカマをかけるポルノ映画館の売店の女性を演じています。とても魅力的な女優ですが、一番印象に残っているのは、ジョン・カサヴェテスの傑作『ラヴ・ストリームス』(1984年)の主人公が熱をあげる子持ちの歌手役で、本作でザジー・ビーツがシングル・マザーなのもそれを意識したのかもしれません。
・準主役のジェリー・ルイスは、日本での人気はイマイチかもしれませんが、私の観た範囲で最良の「ジキル博士とハイド氏」映画である『底抜け大学教授』(1962年)で監督・脚本・主演を務めた才人です。『キング・オブ・コメディ』では、ほとんど仏頂面で通しているのも、ある意味おかしいです。
・映画のラストで「キング・オブ・コメディ」となったロバート・デ・ニーロが、本作で有名コメディアンとして登場するのは、もちろん意識したキャスティングでしょう。底辺からエスタブリッシュメントとなった彼が、新たに登場した底辺の人間に葬り去られるという本作は、皮肉が効いています。

評者

hacker2

更新日時

2019年12月05日 10時54分

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