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熱波/hackerのコメント

rating44.0000

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採点

rating4

コメント

第一部は現在のリスボンを舞台にしたトーキー、第二部は60年代のアフリカ植民地を舞台にしたサイレントという構成の印象的な作品

レビュー

監督は、ポルトガル映画界期待の若手ということのようで、彼の作品を観るのは初めてでした。全体として、不思議な雰囲気に満ちあふれています

「楽園の喪失」と題された第一部では、主人公はピラール(テレーザ・マドルーガ)という定年退職をして一人暮らしをしている女性と言って良いでしょう。彼女は、社会との接点を見出そうと、色々な奉仕活動に参加していますが、なかなかうまく行っていません。また、隣人にはアウロラ(ラウラ・ソヴェラル)という、やはり独り暮らしの偏屈な老女が住んでいるのですが、彼女がある日病に倒れ、ピラールと、アウロラのメイド、サンタ(イザベル・カルドーゾ)に、ベントゥーラ(エンリケ・エスピリト・サンテ)という男に会いたいと頼みます。二人は、この男を見つけますが、彼女の死に目には間に合わず、男は認知症と診断されていました。彼女の葬式の後、男は50年前に起こったことを語ります。

「楽園」と題された第二部は、ベントゥーラの回想という形で展開します。そして、若きベントゥーラ(カルロス・コッタ)と若きアウロラ(アナ・モレライ)のナレーションと、音楽は流れますが、いわば普通に撮られた第一部と違って、こちらはサイレント映画と呼んでも構わないでしょう。ただ、『アーティスト』と比べると、少しトーキー寄りではありますが...

そして、第二部は認知症の老人が語るものであるがゆえに、観ている最中には意識しないものの、どこまで現実で、どこまで記憶の混乱なのか、実は観客にはまったく分からないのです。ベントゥーラとアウロラが激しく禁断の愛を燃え上がらせたことは間違いないのでしょうが、もしかしたら、すべて妄想のなせる技なのかもしれません。少なくとも、第二部の内容が、すべて「真実」ではないかもしれないというのは、語り手が認知症であるという設定である以上、意識しておかなければなりません。

そして、第二部は、二人が最後にやり取りした手紙の内容が読み上げられた後、唐突に終わってしまいます。つまり、現在から過去を回想した場合、普通はまた現在にもどって、現在の人々のその後なり、感慨なりを描写するものなのですが、それがまったくありません。ピラールやサンタがどうなるのか、この物語を聞いてどう思ったかが、まったく描かれていないのです。これが、かえって不思議な余韻を残します。つまり、過去で描かれた人間の姿が現実であって、現在の人間たちの方が幻であるかのような印象を受けるのです。しかも、過去を語るのは認知症の老人という、一種のパラドックスが映画全体を支配しているわけです。

更に複雑にしているのが、第一部がトーキーで第二部がサイレントという構成で、原題が同じムルナウの無声映画『タブゥ』を意識した作品ということからも、深め読みするなら、「楽園」=サイレント映画を失った、映画の将来に対する不信感のようなものが感じられるような気がします。

そういうような理由で、妙に印象に残る映画でした。一見の価値はあります。

評者

hacker

更新日時

2013年09月14日 11時57分

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