みんなで作る映画データベース
  1. トップ
  2. 映画一覧
  3. 歴史・時代劇
  4. 世界史
  5. 天国の門
  6. hackerのコメント

天国の門/hackerのコメント

rating55.0000

天国の門へのコメント

採点

rating5

コメント

先月パリで観た映画の中では、一番の収穫でした。

レビュー

『ディア・ハンター』の成功で、得意の絶頂にあったマイケル・チミノが脚本も手がけ、やりたい放題やってしまった「呪われた」映画として知られています。大幅に予算を超過して出来上がった作品は、当初5時間30分の長さだったそうで、それを3時間39分に縮めたものの、アメリカ国内の事前試写では評判が悪かったため、2時間半までカットされたものが公開され、興行的には惨敗の憂き目を見てしまい、マイケル・チミノの監督としてのキャリアはほとんど終わってしまったと言っても嘘ではないでしょう。

先月パリで観ることができたのは、この作品をデジタル化する時に3時間45分にしたヴァージョンで、私も日本初公開の時には観ていますが、あらためてシネシコのスクリーンで観る、その細部へのこだわりには舌を巻きました。そうは言っても、元々の長さが長さなので、物語的には、やはりかなりカットされていることは隠しようがなく、観客にとまどいが生じるのは仕方ないことでしょう。これで、2時間半のヴァージョンだと、訳が分からないを通り越して、滑稽な展開に思えるのではないでしょうか。また、西部開拓史の恥部ともいうべき史実がベースなので、アメリカ人が見たがらなかったのは無理もありません。

物語は1892年4月にワイオミング州ジョンソン群で起こった、大牧場主たちが結束して「組合」を作って、50人のガンマンを雇い、後からこの地に移民としてやってきた東欧系移民ー主にユダヤ人ーのブラック・リストに載せた152人を、アナーキスト若しくは泥棒として、殺害しようとした史実に基づいています。

映画は、しかし、1870年の東部の名門ハーバート大学の卒業式から始まります。紹介されるのは主人公ジェームズ・エイブリル(クリス・クリストファーソン)と、その親友で卒業生代表として挨拶をするビリー・アーヴィン(ジョン・ハート)です。社会への貢献の熱意と正義感あふれる彼らの卒業の喜びが、画面全体に爆発するようにあふれ、特に円形に男女が踊るワルツの場面で、主人公たちを高速で追いかける望遠レンズの使い方が印象的です。

そこから、物語は22年後の1892年に飛ぶわけですが、この22年の出来事がカットされた部分の大半ではないかと、私は疑っています。

22年後には、卒業生代表にも選ばれたビリー・アーヴィンは、ワイオミングの地で、移民排除の動きが非道だと分かっているくせに、何もしようとしない、飲んだくれの日和見主義者となっています。ジェームズ・エイブリルは、この地区の保安官となっていますが、東部に妻を残しており(これもはっきりと語られるのはラスト・シーンであって、途中では、部屋に飾ってある妻の写真で暗示されているだけです)、また金銭的にはかなり裕福でありながら、ワイオミングでの保安官という仕事をしている理由というのは、観客には提示されないままです。彼が結婚し、東部で事業的には成功を収めたものの、単身いわば辺境の地に赴任することを選んだいきさつが、最初のヴァージョンでは、それなりに描かれていたのではないでしょうか。

彼には、エラ(イザベル・ユペール)というフランス系移民の愛人がいます。エラと言う名前は、フランス語のエル(彼女)からきているのでしょう。つまり、イヴのような意味合いの命名だと思います。彼女は売春宿を経営していますが、自らも売春婦です。ですが、ジェームズからは金を取りません。この設定は、ロバート・アルトマンの傑作『ギャンブラー』でジュリー・クリスティーが演じた役を思い出させます。エラに想いを寄せるのはもう一人いて、「組合」の雇われガンマンのネイサン・チャンピオン(クリストファー・ウォーケン)ですが、彼からはエラは金を取っています。ジョンソン群戦争と絡めながら、この3人の関係も語られます。

そして、この中心にいて、二人の男の間で揺れ動くエラを演じるイザベル・ユペールが実にきれいです。とてつもない演技派なので、その美しさに気づく以前に演技に感銘してしまうことが多い(特にシャブロルの諸作)のですが、本作では全裸シーンも含め、その美しさを存分に発揮していますし、後述する移民と「組合」との銃撃戦で馬を疾走させる姿の何とカタチ良いこと!もちろん、揺れる女心の表現も素晴らしく、この作品がこんな悪評をとらなければ、英語もうまいですし、例外的にハリウッドで成功したフランスの大女優になったかもしれません。

ネイサン役のクリストファー・ウォーケンも、どこか初々しさを感じさせる笑顔がこの頃は印象的で、エラに求婚の言葉代わりに、自分の家族と家、新聞紙を貼りつけて壁紙にしてある家を見せる場面(エラがビューティフルと壁紙をほめるのも良いのです)、裏切り者として「組合」に包囲されて殺される場面で「壁紙」が燃え盛る家でエラに遺書を書くところなど、泣かせます。

ただ、これらはいわば派生の物語で、チミノ監督にとっての本筋は、大統領や政府の名において行われた、移民排除の史実であり、戦いのむなしさであったことは間違いありません。「組合」のガンマンたちの周囲を回りながら攻撃をしかける移民たちの銃撃戦の場面で、彼らを高速で追う望遠レンズは、この映画の冒頭近くの歓喜のワルツの場面の裏返しの、死のワルツなのです。そして、戦いが終わり、点々と死体が横たわる戦いの場を見降ろすようなワイオミングの美しい山々の自然が、何であれ殺し合いのむなしさー『ディア・ハンター』同様ーを伝えてくれます。

一番最初のヴァージョンが残っていないのは残念ですが、素晴らしい作品だと思います。最後ですが、音楽も撮影も素晴らしかったことを付け加えておきます。

評者

hacker

更新日時

2013年05月06日 20時38分

コメントの推薦

データがありません
2021年11月28日 11時27
2021年11月28日 11時27
©ずばぴたテック