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霧の旗/hackerのコメント

rating44.0000

霧の旗へのコメント

採点

rating4

推薦数

+2

コメント

同じ「妹」でも...

ネタバレ

このレビューは物語の核心部分が明かされています。

レビュー

倍賞千恵子という女優は、『男はつらいよ』シリーズのさくら役であまりにも有名になってしまいましたが、彼女の実力を考えると、本当に良かったのかな、と思うことがあります。この映画のヒロインは、女優としては、とても演じ甲斐のある役だと思いますが、それを見事にこなしている彼女の芸域の広さを実感させてくれる作品でもあります。

映画は、朝まだ早い熊本駅から電車に乗る、暗い顔をしたヒロイン桐子(倍賞千恵子)の東京行きの旅から始まります。彼女の目的は、殺人犯として逮捕された兄(露口茂)の弁護を、高名な弁護士大塚欽三(滝沢修)に依頼するためでした。しかし、高額な報酬を要求する大塚は、。「貧乏人には正当な裁判も受けられないのですか!兄は死刑になるかもしれません!」という必死の訴えを無視して、すげなく断ります。

結局、やる気のない国選弁護人しかつかなかった彼女の兄は有罪を免れることができず、やがて刑が執行されます。大塚の元には、それを簡単に告げる、彼女からの葉書が届きます。大塚は、それから気になって、裁判記録を取り寄せて、調べてみると、どうやら冤罪であったらしいことが分かります。

一方、上京した桐子は、大塚の愛人径子(新珠三千代)の経営するバーのホステスになります。そして、偶然、彼女が疑われる殺人事件の現場に居合わせてしまい、その時、現場に落ちていた別人のライターを、こっそり拾いあげます。

桐子は、径子の無罪を証明できる立場にありながら、彼女に不利な証言をします。大塚は、何度も桐子の元を訪れ、証言の撤回を頼みますが、彼女は聞き入れません。「君のお兄さんは、無罪だったかもしれない。私が手助けしてあげる」という必死の大塚の言葉にも、「兄はもう戻って来ません」と答えるのみです。

ところが、ある日、態度を一転させ、大塚の申し出を受け入れる、と桐子は言います。喜ぶ大塚...。桐子は、そんな彼を自宅に連れて行き、酒を飲ました上で、誘惑し、関係を結びます。

そして、翌日...桐子は「大塚弁護士が偽証しろとしつこく迫ったあげくに、私を乱暴した」と警察に訴えるのです。処女膜裂傷の診断書を添えて...。こうして、大塚弁護士の社会的地位は崩壊します。

ラスト・シーン、故郷に戻る船の上で、桐子は船員に尋ねます。「この辺の海はどれぐらいの深さですか」「さぁ、でも相当深いよ」そして、誰もみていない時、彼女はライターを遠くに放り投げるのです。

この作品は、松本清張原作だけあって、考えさせられる要素も、多々含まれます。言うまでもなく、死刑という殺人に対する間接的なプロテストもありますが、現代社会において、貧富の差によって、受けられる正義にすら差がある、という現実が、最も心に響くテーマでしょう。ブラックジャックではありませんが、医療の世界でも、金がないばかりに、先端の治療が受けられずに苦しんでいる人は、少なくないのではないでしょうか。それが、資本主義の本質だと言って、済まされるような問題ではないと思うのですが...。

しかし、そういう側面を別としても、この映画の倍賞千恵子は、本当に見事です。冒頭と最後は、共に彼女の旅、前者は熊本から東京へ、後者は東京から熊本へ、なのですが、その間の彼女の変化を感じさせて、その表現が素晴らしいのです。最初観た時、ラスト・シーンの彼女に圧倒されたのをよく覚えています。それに比べると、後に同じ役を演じた山口百恵は、最初から最後までずっと山口百恵で、それはそれで悪いとは言いませんが、当然ながら演技力には雲泥の差がありました。

倍賞千恵子は演技だけでなく、その透明な、澄んだ歌声も素晴らしいものがあったのですが、そちらの方面の才能も、十分発揮したとは思えないのは、残念なことです。ある意味、さくら役の犠牲になった、と言ったら、本人に悪いのでしょうが...。

最後ですが、この映画のスタッフは、当時の日本映画界の粋とも言える人たちばかりです。そういう意味からも、もっと評価されても良い作品と思っています。

評者

hacker

更新日時

2008年10月30日 16時47分

コメントの推薦

参考になる ストーリーの部分も読んじゃいましたが、それでも見てみたいと思いました。いつか、必ず。 2008-12-10
ともゆき
参考になる (これから観る時のためストーリー部分は読んでませんが) 「当たり役」があるというのも、役者にとって必ずしも幸せなことではないのかもしれませんね。 近々鑑賞して、女優・倍賞千恵子を堪能したいと思います。 2008-10-30
おくらほま
2021年12月08日 06時43
2021年12月08日 06時43
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