みんなで作る映画データベース
  1. トップ
  2. 映画一覧
  3. 戦争
  4. 歴史上の戦争
  5. 麦の穂をゆらす風
  6. おれんかのコメント

麦の穂をゆらす風/おれんかのコメント

rating44.2500

麦の穂をゆらす風へのコメント

採点

rating4

推薦数

+1

コメント

こんなに緑豊かな、この上なく美しい土地で、こんなに悲惨な出来事が起きているなんて!
信念って怖い。そしてあまりにも悲しい。

ネタバレ

このレビューは物語の核心部分が明かされています。

レビュー

1920年代のアイルランド。豊かな自然と緑がこの上なく美しい。
だけど、大英帝国の支配下で、イギリス兵がのさばっている。美しい緑の中で繰り返される暴力と虐殺。
初っ端から、暴虐の限りを尽くすイギリス兵。17歳の少年が自分の名前を英語で発音しなかった故に惨殺される。家族の目の前で。

…ありえない。けれどもこれはほんの序章。 理不尽で強権的に管理しようとするイギリス兵に対抗するIRA側だって負けてはいない。

祖国を、自分たちの主権を取り戻すためには仲間にも厳しい統制を敷く。裏切り者は子供だろうが容赦ない。処刑を受け入れる少年の最期の言葉が「怖いよ」ただ哀しい。イギリス兵の拷問で負傷した兄テディに替り、処刑を実行するデミアンが呟く。「こんな戦いに意味はあるのだろうか」
 
80年後を知る身としては、「ない!ないからやめなさい!」と止めてあげたい気分だ。(彼らの戦いを無意味とまでは言わないが)デミアンはもともと医者になるはずだったのに。

処刑も訓練も美しい緑の平原の中で行われる。 美しい緑の中で、行われる殺伐とした日常。 祖国への深い想いと共に、コントラストが切ない。

独立に向けて政治活動は続く。 双方、さんざん血を流した上で状況が変わる。大英帝国が折れ、イギリス兵は撤退、協定を結ぶことになる。その協定は北部は大英帝国に留まり、南部も英国王に忠誠を誓うというものであった。
ここで、この協定を成果として評価する者と、ひとつのアイルランド独立に固持する者とで、意見が対立。同胞同士での戦いになってしまうのだ。
協定を支持し、政府参謀となる兄テディ。完全な祖国独立を主張するデミアン。
年端もいかない頃から政治活動をしてきたテディは疲弊していただろう。イギリスの圧政下で理不尽に流した血の多さ、荒んだ国。完勝でなくとも一歩前進、圧政と疲弊から国を脱却させる道を選んでも不思議はない。現実的な選択だ。
けれども、独立した一つのアイルランド達成するまで妥協すべきでないと主張する側とは完全対立。
どちら側も最初に虐殺された少年ミホールを殉教者と呼び、彼のためにこうあるべきだと叫ぶ。そして双方、主張を通す政治的手段は腕力しかないかのように、敵対する。きっと感覚が麻痺しているのだ。同胞を殺し合い、殺された側はお互い、自国民を殺したと相手を非難する。 
そしてテディも志を違えた弟デミアンを自ら処刑する。祖国の平和のためにやらなければならないことだと信じている。テディの葛藤と悲しみに嘘はないと思う。家族や親しい人の死や喪失感が日常になり、信念を優先するのが普通になってしまっている。祖国のためにという大義名分が純粋なだけに愚かで哀しい。

この映画の監督はケン・ローチだ。ケン・ローチは社会派として高名だが、イギリス人である。アイルランド人ではない。
アイルランド人のニール・ジョーダンはマイケル・コリンズの映画を作るのが夢だったらしい。 そのマイケル・コリンズはこの映画の中ではイギリスに懐柔されたヘタレとして非難されている。 
なんとなく、イギリス人のケン・ローチがアイルランド問題に関して、イギリスへの非難を逸らすかのように、彼らの同法同士の愚かにも悲しい殺戮に焦点を当て、責任転嫁(?)をしているような感触がして、ケン・ローチへの個人的評価はちょっといや〜なものになってしまった。

余談:これを見た後、Hungerという、80年代にハンストで死ぬIRA活動家の映画を観た。趣の大きく違う映画なのだが、あれだけ祖国のために悲惨な血を流して数十年、まだ同じ信念を抱え、暴力に訴え、自らの命を投げ出す若者がいる状況があまりにも辛いと思った。 彼らの犠牲は実を成していないじゃないか! 

評者

おれんか

更新日時

2011年08月01日 17時04分

コメントの推薦

参考になる 正確には「共感する」です。辛いですよね。 2011-08-03
 
2021年11月30日 00時36
2021年11月30日 00時36
©ずばぴたテック