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アメリカン・ビューティー/dreamerのコメント

rating33.7308

アメリカン・ビューティーへのコメント

採点

rating5

推薦数

+1

コメント

壊れゆくアメリカの家庭を通して、現代社会の閉塞感と悲劇性をシニカルなブラック・ユーモアで描いた、サム・メンデス監督の秀作「アメリカン・ビューティ」

ネタバレ

このレビューは物語の核心部分が明かされています。

レビュー

この映画「アメリカン・ビューティ」は、20世紀が終わろうとしていた時に製作された、アメリカ社会やアメリカの家庭が抱えている闇や閉塞感、アメリカン・ドリームというものの終焉をシニカルに、なおかつ喜劇的に見つめた、アイロニーに満ちた刺激的な作品です。

監督は、演劇畑の舞台監督出身のサム・メンデスで、彼の映画監督としてのデビュー作で、撮影は今や「明日に向って撃て!」、「ロード・トゥ・パーディション」と本作で3度目のアカデミー賞最優秀監督賞に輝いた、伝説のカメラマンのコンラッド・L・ホール。

ごく普通の平凡なアメリカ市民として、ありきたりの普通の生活を送る事が、いかにストレスに満ち溢れているのかを、中産階級の家庭を中心に描いていて、リストラという厳しい現実にさらされる中年サラリーマンのレスター(ケヴィン・スペイシー)、何の取柄もない夫にうんざりしながら、自分の理想とするお洒落な生活を夢見て躍起になる妻キャロリン(アネット・ベニング)、カッコ悪くダサイ父親を嫌って、まともに口も聞かない娘ジェーン(ソーラ・バーチ)-------。

レスターは、娘の親友の美少女に、キャロリンは人生の成功に、ジェーンは胸の豊かな美人にと、それぞれの"ビューティ"を求めてもがいています。

この映画は、人間の果てしない欲望や挫折を垣間見せながら、最も醜悪な部分を暴き出し、日常生活の中で抱える様々な歪みに、容赦のない光を当てていきます。
果たして、現代に生きる人間は真の幸福をつかむ事が出来るのであろうか? と-------。

この映画の題名の"アメリカン・ビューティ"は、赤い薔薇の品種の一つで、"現代人の美意識や幸福感の象徴"として、ファンタジックに暗示して付けられています。

そしてこの映画は、物欲にまみれ、世間的な体裁だけを繕う、哀れな現代人の生態をシニカルでブラックなユーモアで笑い飛ばしています。

そしてドラマの背後から、表面的な生態とはうらはらに、"どこまでも孤独な現代人の心の闇"が浮かび上がって来ます。

この映画は、喜劇であると同時に悲劇であるという側面も持っていると思います。
ビデオカメラに凝っている、この主人公一家の隣人の、ビデオカメラに凝る青年が捉えた、"風に舞うビニール袋"という印象的な映像があります。

青年は、この不可思議な映像に"美"を感じています。
つまり、青年は周囲に振り回されない独自の"美意識"を持っています。

そして、このビニール袋というのは、周囲に振り回されるだけの"空虚な現代人の心そのもの"を象徴的に暗示しているのだと思います。

やがて、世間的な体裁という殻を破って、ありのままの自分を曝け出す事こそが、真の幸福であるというテーマが浮かび上がって来るという演出上の仕掛けになっています。

ジェーンは、窓越しに裸になり、青年はビデオカメラを通して裸の彼女を見つめます。
また、レスターはジェーンの親友の前で裸になり、彼女も裸になってレスターを見つめます-------。

このような行為を通して、初めて人間同士の空虚な心が満たされていくという、深いテーマに根差したショットが映し出されていきます。

"アメリカン・ドリームの崩壊"を描いたこの映画は、"夢というものを見失ったレスターという男の再生のドラマ"でもあると思います。

映画のラストで、銃に倒れたレスターの表情には、どこか穏やかで静かな微笑みが湛えられていて、この主人公の死は、"人間としての真の再生"を象徴的に暗示しているのだと思います。

このありふれた"中年の危機"を、喜劇的なアンチ・ヒーロー像を通して、"中年の再生"に変えたケヴィン・スペイシーのユーモアとペーソスを滲ませた絶妙の演技は、彼の役者人生の中で新境地を開いたと思います。

妻キャロリン役のアネット・ベニングのどちらかというと少々過激なオーバーアクトも、この映画の中ではケヴィン・スペイシーの抑制された演技と良いコントラストになっていたと思います。

登場人物の全てが、演劇的にデフォルメされて描かれているのは、やはりサム・メンデス監督が舞台監督の出身のせいで、計算された思惑通りの見事な演出効果を上げていたと思います。

なお、死者の回想形式で語られるこの映画は、私の大好きな名匠・ビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」をどうしても思い出します。

サム・メンデス監督は、アカデミー賞の授賞式での受賞スピーチで、ビリー・ワイルダー監督への感謝の気持ちを述べていた事からも、この映画はビリー・ワイルダー監督へのリスペクトとオマージュを捧げたものになっていると思います。

イギリス人であるサム・メンデス監督は、現代のアメリカ人が迷走している様を、"冷徹で容赦のない客観的な視線"で描き切っています。

アメリカにとって、異国人ならではの距離感の保ち方は、同じく異国人であるビリー・ワイルダー監督のスタンスに良く似ていると思います。

そして、そこから生まれるシニカルな笑いというものは、まさしくビリー・ワイルダー監督の描く映画の魅力と一致します。

また、"アメリカン・ドリームの閉塞感と悲劇性"という、この映画の重要なテーマは、古くから何度となく取り上げられてきた題材ですが、この映画はそこに、"ロリータ"や"ストーカー"や"ゲイ"といった、より現代的でアクチュアルな要素を散りばめるという、こうしたアレンジの巧妙さが、この"映画としての完成度の高さ"に繋がったのだと思います。

評者

dreamer

更新日時

2021年04月29日 23時50分

コメントの推薦

参考になる 2021-05-02
hacker2
2021年11月28日 08時26
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