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ベニスに死す/hacker2のコメント

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ベニスに死すへのコメント

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rating4

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コメント

『ヴェニスに死す』(実吉捷郎訳、岩波文庫)を再読した後で、ヴィスコンティの1971年の映画化作品も、録画してあったものを再見しました。物語はあまりにも有名なので説明しませんが、50代半ばの主人公の本作を1912年に発表した時は、トーマス・マンは30代半ば、ルキノ・ヴィスコンティがそれを映画化した時は60代半ばだったわけで、老いが将来なのか現在なのかは創造者にとっては大きかったことでしょう。

レビュー

まず、主人公のグスタアフ・フォン・アッシェンバッハ教授の設定は大分違います。列挙してみます。

仝矯遒任郎邁箸任△襪、映画では音楽家
原作では妻を亡くし娘一人であるが、映画では娘を亡くし妻が存命
8矯遒任蓮⊆膺邑は名声に包まれているが、映画では主人公がコンサートで観客からあからさまな不評を買う場面あり

これらの違いは、アッシェンバッハの外見のモデルが音楽家グスタフ・マーラーであったことから、ヴィスコンティが加えたものでしょう。△砲弔い討魯沺璽蕁爾麓尊櫃北爾鯔瓦していますし、についてはウィーン・フィル指揮者時代に体験したことのようです。

ですが、基本的には、老いを知らない時に本書を書いたマンと、老いの直中にあって、20代のヘルムート・バーガーと恋仲にあったヴィスコンティの差が両作には出ています。それと、ヴィスコンティは批評家のみならず大衆に受け入れられなければ成功者とは見なされない映画の世界にいたことも大きかったのでしょう。


ところで、原題の "Der Tod in Venedig" は、直訳すると「ヴェニスの死」若しくは「ヴェニスの死神」になります。英語題でも "Death in Venice" となっています。主人公は泊っているホテルのあるリド島で死ぬのですが、この島はヴェニス市ではありますが、私の感覚では本物のヴェニスではありません。例えは悪いかもしれませんが、淡路島が神戸ではないようなものです。ですから、この邦題は、『失われた時を求めて』同様、昔からちょっと気になっていました。

原作は、どういう形であれ、美と死の物語であることは間違いないのですが、死はヴェニスにあり、美はリド島にあって、主人公は結果的にリド島に死を持ち込むものの、その時には美は主人公と死を嘲笑うようにリド島を発つというのが、基本的な物語なのだと私は解釈しています。しかし、肉体を持つ美というのは必ず死に追いつかれるもので、肉体を持たない芸術の美だけが死を免れることができるというのが、マンとヴィスコンティという二人の芸術家の主張だったのだと思います。

ただ、ヴィスコンティの老いへの意識は、マンより強烈に出ています。ラストのダーク・ボガード演じる主人公の染めた髪と、死化粧でもあり道化師でもある白塗りの顔と、髪の染料が汗で溶けてその顔を流れる姿、原作にもありますが映像ではよりグロテスクさが強調されている姿に、それが象徴されています。この白塗りの顔は、原作でも映画でも主人公がヴェニスに着いた時の船に同乗してた酔っぱらいの老人で既に描かれているのですが、原作の中盤で登場する卑俗を象徴するような音楽芸人に映画ではやはり白塗りをさせています。この音楽芸人は、クラッシク音楽家の主人公の対極にあるものかもしれませんが、本物の貴族だったヴィスコンティが生きてきた映画の世界の卑の部分を描いたようにも思えます。要するに、老=卑=死が美と対峙するという構図が、この白塗りの顔に凝縮されていて、それへの恐怖も原作以上に鮮明なのです。

原作は、マンの傑作の一つとされますが、個人的には、実は同じ中編なら『トニオ・クレエゲル』の方が好きです。この両作のどちらを気に入るかも、人によって意見が割れるでしょう。

最後ですが、ヴィスコンティの最高の映画は『山猫』(1963年)だと思っていますが、昔、パリのシネマテークで、もぎりをやっていたイタリア系の中年女性が、彼の映画のことを「ヨーロッパお城巡り」として馬鹿にしていたのを憶えていて、私も映画監督として必ずしも超一流とは思っていません。『ベニスに死す』でも、ズームの多用は気になりますが、マンの『ヴェニスに死す』と、カミュの『異邦人』の二作を映画化した勇気(?)には敬意を表したいと思います。特に、ビョルン・アンドレセンという美少年タジオ役を見つけてきただけでも、『ベニスに死す』は映画史に名を残すでしょう。

評者

hacker2

更新日時

2020年09月25日 11時23分

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